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オルセー美術館『ヴァン・ゴッホ / アルトー』展 〜2014年7月6日

3月10日月曜日、知人のご好意を受け、オルセー美術館で開かれたヴェルニサージュに行ってきました。フランスでは毎週どこかしらの美術館やギャラリーで開かれているヴェルニサージュ。言うなれば、オープニング・レセプション。一般公開の前に行われる映画の試写会のようなものです。美術館でのヴェルニサージュに参加するには招待状が必要な場合が多く、主に美術関係者、ジャーナリスト、メセナ(後援者)あるいは職員の家族等が招待されます。ギャラリーでのヴェルニサージュの場合は、よほど敷居の高いギャラリーでもない限り、基本的には誰でも参加することが出来るというのが一般的です。場所がどこであれ、ヴェルニサージュで行われるのは「展覧会のお披露目」と「カクテル・パーティー」です。
 
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Vernissage

ヴェルニサージュやオープニング・レセプションのようにカタカナで表記される外来語を目にする度に、何かより良い日本語は無いものかと一旦足を止め、我々日本人はもっと外来語を日本語に落とし込むべきではなかったかなどと考えてみたりするのですが、さて何と言いましょうか。遊女が店に出て初めて客を取ることを「初見世」と言いますが、ヴェルニサージュにおいても同様、展覧会が初めて客の目に触れるので「初見世」なんて呼ぶのはいかがでしょうか。
 
そんなことはさて置き、3月11日よりオルセー美術館にて「ヴァン・ゴッホ / アルトー(Van Gogh / Artaud)」という展覧会が始まりました。ヴァン・ゴッホは言わずと知れた19世紀を代表する画家ですが、アルトーとは誰か、一体どのような人物だったのでしょうか。
 

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"Van Gogh / Artaud, Le suicidé de la société" au Musée d'Orsay à Paris©
 

Antonin Artaud

アントナン・アルトー(1896年9月4日 - 1948年3月4日)は、ギリシャ系フランス人の俳優ですが、詩人・小説家・演劇家としても活躍しました。1920年代に俳優としての活動を始め、主に舞台の仕事をする傍ら詩作を試み、シュルレアリスム運動に加わりました。20年代後半は多くのサイレント映画に出演しています。1936年より9年間精神病院に収監されますが、評伝『ヴァン・ゴッホ』でサント・ブーブ賞を受章します。彼の芸術に対する功績、特に前衛演劇に与えた強大なインパクトは、ドゥルーズやデリダの思想に影響を与え、現代の芸術を語る上で欠かせない存在とされています。
 

『ヴァン・ゴッホ』

今週始まった展覧会「ヴァン・ゴッホ / アルトー」は、アルトーが残した評伝『ヴァン・ゴッホ』を元に構成されています。
1947年、ゴッホの回顧展が始まる数日前、パリにあるギャラリー・オーナーのピエール・ロエブ(Pierre Loeb)は、精神病院から退院したばかりのアルトーに「ゴッホに関するエッセイ」を書くよう提案しました。こうして生まれたのが評伝『ヴァン・ゴッホ』です。
アルトーは本の中で「ゴッホは狂人だった」という俗説に対立し、「彼は狂人ではなかった」と断言します。そして、いかにしてゴッホの並外れた明晰さが彼の正気を邪魔したのかを提示しようとしました。ゴッホの絵画に垣間見える一種の暴力性を通して見えてくる、彼を自殺へと追い込んだ「真実」とは何だったのか。ゴッホが狂人だったのではなく、社会が彼を狂人と見なしたのだと彼は主張します。
すべての狂人のなかには、理解されざる天才がいて、かつて彼の頭のなかで輝いていたこの天才の観念が人びとをおそれさせたわけだが、この天才は、人生があらかじめ彼に課した八方ふさがりの状態から抜け出す道を、錯乱のなかにしか見出しえなかったのだ。
 
しかし、考えてみればアルトーも9年もの長い間精神病院にいたわけで、この評伝は狂人による狂人へのオマージュとも言えます。

 

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『ヴァン・ゴッホ / アルトー』展

展覧会はゴッホの油彩画が40点と数点のデッサンや手紙、そしてアルトーによるデッサンと映像で構成されています。オルセー美術館の所蔵品だけでなく、アムステルダム美術館やワシントン美術館、MET、個人蔵等々、多くの借り入れで成り立っており、アルトーの言ってることが全然理解出来なくても見応えは十分。中でも、ゴッホの「自画像」が集められた展示室は圧巻です。
 
会期は2014年7月6日までとなっているので、春休みやゴールデンウィークを利用してパリに来られる方にはお勧めです。
寓話の挿絵や風刺画を描かせたら右に出るものはいないと言われるギュスターヴ・ドレの展覧会も同じくオルセー美術館で5月11日で開催されています。お見逃しなく。
 

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