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週末はホテル・ルテシアへ

Hotel LUTETIA

 パリ左岸、サンジェルマン・デ・プレ地区の中心に位置するホテル・ルテシア。
 世界で最も歴史のある百貨店ボン・マルシェの対角に位置するこのホテルは、開業以来、多くの著名な芸術家にも愛されてきました。アルベール・コーエンはこのホテルで代表作『選ばれた女』を執筆し、ピカソやマティス、アンドレ・ジッド、ジェームス・ジョイス、サミュエル・ベケット、サン=テグジュペリ、ジャン=ポール・サルトル、アンドレ・マルロー等、多くの著名人を魅了してきました。
 

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 シャルル・ドゴール元フランス大統領が結婚して最初の夜を過ごしたホテルでもあり、そのスイートルーム・エッフェルがある7階の710号室からの眺めはまさに最高の贅沢。イヴ・サンローランのパトロンとしても知られる実業家のピエール・ベルジェ氏は6階のスイート・パリジャンに12年もの長きに渡って暮らしていました。
 
 1907年より3年に渡って工事が行われ、建築家ルイス・ヒポリト・ボロー(Louis Hippolyte Bolleau)とアンリ・トザン(Henri Tauzin)の手によって建設されました。このホテルの顔とも言えるアールデコのファサードは、レオン・ビネ(Léon Binet)とポール・ベルモンド(Paul Belmondo)の作品です。
 

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三年間に及ぶ大改装

 1955年以来、ホテル・ルテシアはフランスの名家・テタンジェ家(Taittinger)が所有していましたが、2005年にはアメリカの投資会社であるスターウッド(Starwood Capital Group)によって買収されました。
 そして、2010年7月末には、イスラエルの億万長者であり、投資家のアルフレッド・アキロヴ(Alfred Akirov)が所有する会社(Alrov Group)が1億5000万ユーロを支払い、ホテル・ルテシアの新しいオーナーとなります。
 
 それ以来、今日に至るまでスターウッドの子会社であるコンコルド(Concorde Hotels & Resorts)によって運営されていましたが、2014年4月、改装工事を迎えるために100年を越える歴史に幕が下ろされました。改装工事は今後三年かけて行われる予定で、それにかかる費用はなんと1億ユーロ(約140億円)。文化遺産に指定されているファサードやサロン、Barilletのステンドグラスは今後も保存されますが、231室あった客室やスパ等は全て取り壊されることとなりました。
 

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オークション

 そして、この大改装に伴い、ホテル・ルテシアのサロンに展示されていた美術品、客室の備品やレストランの備品等、3000点を超える品に加え、8000点にも及ぶワインやシャンパン等を販売するオークションが開催されます。
 美術品に関しては、ヌーヴォー・レアリスムの彫刻家セザールの作品やアルマンの現代美術作品等、珠玉の戦後・現代アート作品が出品されます。その他、客室の机や椅子、ソファ、ランプ、リネン、そしてレストランで使用されていた什器や銀器など、ホテルの100年に渡る歴史が刻み込まれた様々な品が出品されます。
 オークション・カタログは三冊80ユーロで販売されていますが、インターネット上で無料で閲覧することもできます。
 

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展示会

 この歴史に名を刻むオークションは5月19日(月曜日)から五日間かけて行われますが、18日(日曜日)まではホテル・ルテシア内で下見会が開催されています。普段はまず見ることの出来ないであろうスイート・ルームやいくつかの客室、サロンが公開されており、非常に見応えがある展示会となっています。
 出品される品の予想価格は50ユーロのものから80,000ユーロのものまで幅広く取り扱っており、どなたにも楽しんで頂くことが出来ます。
 オークションでの入札は事前登録が必要不可欠ですが、下見会は一般に公開されています。
 
 今週末はホテル・ルテシアで過ごしてみてはいかがでしょうか?
 
 
日時:展示会 2014年5月15日(木)ー18日(日) 10時ー18時
   販売会 5月19日(月)ー25日(土)
会場:ホテル・ルテシア 45 Boulevard Raspail, Paris, 75006, France
 
 
 

 

美術市場の規模ってどのくらい?

 美術品には芸術的・文化的な側面だけではなく、価値変動が起きにくい資本としての側面がありますが、日本では未だ美術品に対する投資は一般的と言い難いのが現状です。クリスティーズやサザビーズ等、公の場での美術品取引が盛んな欧米では、それらの価値や価格がより明示化されているということもあり、美術品が銀行融資の担保としても広く利用されています。
 
 バブル崩壊、2009年の経済危機、2011年の東日本大震災は日本の美術市場に大きな影響を与えましたが、現在の国内市場の規模はおよそ1000億円程度といわれています。この数字はなんと世界の美術市場の1.67%でしかありません。このような美術品=資本としての役割を日本でもより浸透させることは、国内の美術市場を成長させる上で欠かすことができない今後の課題といえるでしょう。
 
 

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©TEFAF.com
 

TEFAF

 3月23日までオランダ、マーストリヒトで開催されているアートフェア「TEFAF」。スイスの「アートバーゼル」やアメリカ版バーゼルこと「アートバーゼル・マイアミビーチ」、フランスの「FIAC」と並ぶ世界最大級のアートフェアであり、世界の美術市場を牽引しているアートフェアのひとつです。
 その歴史は古く、1975年、ピクチュラ・ファインアートフェアという名前で、オールドマスターの絵画や中世彫刻を専門とするビエンナーレとして始まりました。1991年にはアンティークだけでなく、「現代美術部門」も設立されます。現在はさらに「デザイン部門」が併設され、「アンティーク」「現代美術」「デザイン」を中心とした総合的なインターナショナル・アートフェアとなりました。開催当初は28程の出展者が中心でしたが、回数を重ねるごとに出店者・来場者ともに数を増し、現在では295の出展者と10の展覧会、10日間に及ぶ開催期間中は70,000人を越えるコレクターや目利き、キュレーター、そしてその他の美術愛好家で賑わいます。
 

Art Market Report 2014

 TEFAFはアートフェアを開催するだけでなく、2000年より他の専門機関と共同でヨーロッパにおける美術市場の規模や構造の研究を行い、現在はさらに国際的な美術市場を対象にした『Art Market Report』なるものを発刊しています。TEFAFの2014年次報告書『Art Market Report 2014 - The Global Art Market with a focus on the US and China』が2013年の美術市場を総括しているので、KunstpediaBloombergの記事を参考にざっくりとご紹介します。
 
 

美術市場の景気は順調

Sales of art and antiques increased 8 percent from a year earlier to 47.4 billion euros ($65.9 billion), according to a report compiled by Arts Economics and published today by the European Fine Art Foundation in Maastricht, Netherlands. The results fell just short of the record 48 billion euros in 2007.
 アート・エコノミクスが作成し、マーストリヒトのヨーロッパ美術財団が発表したレポートによると、 2013年の美術品や骨董品の売上は474億ユーロ(約6.7兆円)となり、2012年に比べて8%増加しました。この数字は好景気に沸いた2007年の記録、480億ユーロに迫る結果となりました。
 
The value of postwar and contemporary art transactions increased by 11 percent from 2012, reaching its highest-ever auction sales total of 4.9 billion euros as records were established for artists such as Francis Bacon, Roy Lichtenstein and Andy Warhol. Boosted by a 25 percent increase in sales, the U.S. confirmed its position as the international art market leader, representing 38 percent of the market by volume, a 5 percentage point increase from 2012, according to the report.
 フランシス・ベーコンやロイ・リキテンシュタイン、アンディ・ウォーホル作品の記録的な落札の影響もあり、戦後・現代アートの取引は前年比11%増の49億ユーロ(約6916億円)。アメリカでは全売上げが25%増、美術市場全体の38%(前年比+5%)を占める結果となり、世界の美術市場を牽引するリーダーとしての地位を確立しました。
 
 

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フランシス・ベーコン『ルシアン・フロイド 三部作』1969
©Christie's Images LTD. 2013
 
The recent rally marks a rebound from 2009, when global art sales had contracted to 28.3 billion euros. With asset prices rising worldwide since then, a growing number of millionaires and billionaires worldwide has been buying art, according to the report. There were 32 million millionaires globally last year, of which 42 percent were based in the U.S. At least 600,000 of the global group are mid-to-high level art collectors, the findings show.
 最近のこの相場の上昇局面は、世界の美術市場が283億ユーロ(約4兆円)に緊縮した2009年からの回復を示しています。報告書によれば、それ以来、資産価格の上昇と共に増え続ける世界中の億万長者が美術品を買っているとのこと。2013年には世界に3200万人の億万長者が存在し、その内の42%は米国に集中していました。その内、少なくとも60万人は中高レベルのアートコレクターであると、調査結果は示しています。
 
“Most high priced works in postwar and contemporary art are being sold in New York, both at auctions and in dealer sales,” Clare McAndrew, a cultural economist who compiled the report, said in a telephone interview. “It’s not just the U.S. buyers. People from Latin America and Asia are buying in New York.”
 報告書をまとめたアート・エコノミクスの創設者であり文化経済学者のクレア・マクアンドリュー博士は、電話インタビューで「オークション、ディーラー間取引の両方において、戦後・現代美術のほとんどの高価な作品はニューヨークで売買されている。買い手はアメリカ人のバイヤーだけではなく、ラテンアメリカやアジアのバイヤーもニューヨークで取引している。」と語ったそうな。
 
 

China’s Role - 中国の役割

 中国は依然、美術市場における最大の新興国です。2011年には美術品の取引額が一時的に米国を上回りましたが、その後は再び第二位に転落、市場全体の24%(前年比-2%)を占めています。イギリスは20%(前年比-3%)を占め、第三位を維持しています。
 

‘Persistent Problems’ - 繰り返される問題

Some of the “persistent problems” plaguing the Chinese art market include late and non-payment by winning bidders at auction, according to the report. A high percentage of unsold auction lots -- 54 percent of all lots offered in mainland China and 44 percent in Hong Kong -- has also dampened the market, indicating resistance to works buyers perceive as “over-priced or not the best examples by the artists,” as well as issues of provenance and authenticity, according to the report.
 報告書によると、中国のアート市場を悩ませている「やっかいな問題」の一つに、オークションでの落札者による未払い、不払い問題があります。香港では44%、中国本土では55%にも及ぶ売れ残りの割合もまた、中国の美術市場の勢いを弱める原因の一つといえるでしょう。購入者が商品に対して抵抗を示す要因としては、「設定価格が高すぎる」あるいは「作家の最良作品ではない」ということだけでなく、作品の来歴や本物かどうかといった信頼性の問題もあげられます。
 
 

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©TEFAF.com
 

Online art market - オンライン・アートマーケット

Online sales, a small but rapidly growing segment of the market, generated more than 2.5 billion euros in 2013, the report showed.
“It is estimated that the online art market, including online sales by auction houses, dealers and online-only companies, could grow at a rate of at least 25 percent per annum, meaning that they could exceed 10 billion euros by 2020,” the report found.
 レポートによれば、小さな市場とはいえ急速に成長しているオンライン・マーケットの規模は、2013年時点で25億ユーロ以上(約3500億円)に上りました。
 「オークションハウスによるインターネット競売、オンラインだけで運営している企業やディーラーによるインターネット販売を含むオンライン・アートマーケットは、年率25%以上の割合で成長したと評価されており、これは2020年までに市場が100億(1.4兆円)ユーロを超える可能性があることを意味している」と報告書は判断しています。
 

美術市場の発展

“After recovering strongly in 2010, the global art market has experienced mixed performance within different sectors and between nations,” says Dr McAndrew in the report. “The much more moderate growth in sales over the last three years reflects the fact that different areas of the market have been recovering at different rates. Some sectors and individual businesses have reached peaks well in excess of those achieved in 2007, while others are still struggling to regain momentum.”

 マクアンドリュー博士いわく「グローバルな美術市場は、2010年に大きく回復した後、様々な部門、異なる国家間で種々雑多な動きをみせている。その後三年間のはるかに緩やかな成長は、市場の様々な領域がそれぞれ異なる速度で回復しているという事実を反映しています。いくつかの領域では個々の企業が2007年の業績を上回る結果を出す反面、その他は勢いを取り戻すのにまだ苦労を強いられている。」
 
“The global art market as a whole is less susceptible to major contractions,” McAndrew said. “It’s more diversified. Since the downturn, it’s been up and down for different sectors and different countries.”
「全体的にグローバルな美術市場というのは、深刻な経済的縮小の影響を受けにくい。美術市場は以前より多様化している。かつての低迷以来、様々な部門で、異なる国々で、市場は発展したり縮小したりしている。」
 
以上、アート・マーケットに関する報告でした。
 
『Art Market Report 2014』はTEFAFのサイトにて20ユーロで購入することが出来ます。デジタル版は3月末に出版予定とのこと。

アルブレヒト・デューラー 二つの『野うさぎ』

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ドイツのルネサンス期を代表するイケメン画家、アルブレヒト・デューラー。

彼が残した謎多き絵画『野うさぎ』には二つのバージョンが存在します(下図)。左がデューラーのオリジナル、右はハンス・ホフマン(16世紀の画家 Hans Hoffmann、20世紀の抽象画家 Hans Hofmannではない)による模写。これまで、それぞれ異なる場所で保存されていましたが、その二つが時を同じくしてウィーンブレーメンで展示されるとのこと。

ホフマンの模写は1億4000万円ほどで売りに出されるそうです。2008年に58万€で手に入れたこの模写を、2014年の現在100万€で売却しようというのは無謀な気もしますが、どうなることでしょう。近年、美術市場の景気は決して悪いとはいえません。日本にはデューラーの作品が極めて少ないように思いますが、ホフマンの模写でも構わないという方、いかがですか?

以下、The Art Newspaperの記事をざっくりと訳しています。

 

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           Dürer’s Hare, 1502                                      Hoffmann’s copy, from 1582
 
©The Art Newspaper
 

 

Splitting hares: a Dürer double bill
Two versions of leporine painting go on show in Vienna and Bremen
By Martin Bailey. Web only
Published online: 13 March 2014
割れる『野うさぎ』:二つのバージョン
二つのよく似たバージョンがウィーンとブレーメンで展示
 
 
Two versions of Dürer’s Hare are emerging, quite by chance, at the same moment—although only one is the real thing. For over four centuries, two watercolours have shared the limelight, each regarded as an original by Dürer at different times.
The version now accepted as authentic, which is rarely shown for conservation reasons, goes on display at the Albertina in Vienna on 14 March. It will be in an exhibition on the history of the gallery (until 29 June). Another watercolour, now regarded as a later copy by Hans Hoffmann, is being offered for sale by the Bremen-based Neuse Galerie for around €1m. 
 
二つのバージョンのデューラーの『野うさぎ』が、偶然にも時を同じくして話題となっています。ー オリジナルは一つだけですが。4世紀もの時を超えて、この二つの水彩画は共に脚光を浴び、どちらも真作と見なされていました。現在、本物として認定されたバージョンは、保存上の理由から滅多に公開されることはありませんが、3月14日よりウィーンのアルベルティーナ美術館で展示される予定です(6月29日まで)。もうひとつの水彩画は、ハンス・ホフマンによる模写だとされており、ブレーメンのニュース・ギャラリーが約100万€で売りに出しています。
 
 

Right from the start, Dürer’s Hare, 1502, was the stuff of legend. One source claimed that the artist had saved the animal during a flood, another that he had modelled his drawing on a cat. A more likely story relates to Dürer’s meeting with Giovanni Bellini in Venice, when the Italian master asked to see the special brush he had used to paint the fine detail of the animal. Dürer offered Bellini several quite ordinary brushes asking him to take his pick; it was Dürer’s skill, not equipment, which accounted for his success. 

 
そもそもデューラーの『野うさぎ』は伝説上の作品でした。その伝説というのは、ひとつにはデューラーが洪水の際に動物を救ったという話。もうひとつは、彼は猫をモデルに『野うさぎ』を描いたのではないかというもの。最も有力な説としては、ヴェニスでのジョヴァンニ・ベッリーニと交流が挙げられます。デューラーが使用しているという動物の細部を仕上げるための特別な絵筆を見せてほしいとベッリーニが頼んだところ、デューラーはベッリーニにごく普通の絵筆を渡しました。デューラーが画家として成功したのは絵筆が特別だったからではなく、彼の技術が素晴らしかったからだという話。
 
 

After Dürer’s death, his original watercolour passed to a Nüremberg family before being acquired by Holy Roman Emperor Rudolf II in 1588. It remained in the imperial collection and is now at the Albertina.

 
デューラーの死後、彼のオリジナルの水彩画は、1588年に神聖ローマ皇帝ルドルフ二世に買い取られる前に、ニュルンベルクの家族の手に渡りました。絵はそのまま皇室コレクションとして残り、現在はアルベルティーナ美術館が所蔵しています。
 
 

Hoffmann’s copy, dating from 1582, was once regarded as an original by Dürer. The watercolour was only downgraded and firmly reattributed to Hoffmann in 1876. It was eventually donated to the Bremen Kunsthalle, and in 1945, it was plundered after Soviet forces entered Germany. In the mid-1990s, Hoffmann’s copy turned up with a Belgian businessman, who had received it from a Russian trader. It was then put up for auction at Lempertz in Cologne in 1999, which led to a restitution claim from the Kunsthalle. 

 
1582年に描かれたホフマンによる模写は、かつて一度、デューラーによるオリジナルだとされていたことがあります。その後、格下げされ、1876年には確固としてホフマンによる模写だとされました。この『野うさぎ』は、やがて、ブレーメン美術館に寄贈されましたが、1945年にソビエトがドイツに侵攻した後に略奪されてしまいます。1990年代半ば、ロシア人の業者からベルギー人の実業家の手に渡りました。その後、1999年にケルンのLempertzで競売にかけられ、それがきっかけとなりブレーメン市立美術館からの返還請求に繋がりました。
 
 

A deal was struck, and the Kunsthalle’s claim was dropped in return for half the auction proceeds. Hoffmann’s Hare sold in 2008 for €580,000, going to Galerie Neuse in Bremen. Galerie Neuse has just offered it for sale, in a full-page advertisement in the February issue of The Burlington Magazine. 

 
オークション落札価格の半分を美術館に支払うという形で要求は退けられ、幕を閉じました。2008年には58万€でニュース・ギャラリーに売却されています。そのニュース・ギャラリーが今度はバーリントン・マガジンに全面広告を使って、ホフマンの『野うさぎ』を売りに出しています。

オルセー美術館『ヴァン・ゴッホ / アルトー』展 〜2014年7月6日

3月10日月曜日、知人のご好意を受け、オルセー美術館で開かれたヴェルニサージュに行ってきました。フランスでは毎週どこかしらの美術館やギャラリーで開かれているヴェルニサージュ。言うなれば、オープニング・レセプション。一般公開の前に行われる映画の試写会のようなものです。美術館でのヴェルニサージュに参加するには招待状が必要な場合が多く、主に美術関係者、ジャーナリスト、メセナ(後援者)あるいは職員の家族等が招待されます。ギャラリーでのヴェルニサージュの場合は、よほど敷居の高いギャラリーでもない限り、基本的には誰でも参加することが出来るというのが一般的です。場所がどこであれ、ヴェルニサージュで行われるのは「展覧会のお披露目」と「カクテル・パーティー」です。
 
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Vernissage

ヴェルニサージュやオープニング・レセプションのようにカタカナで表記される外来語を目にする度に、何かより良い日本語は無いものかと一旦足を止め、我々日本人はもっと外来語を日本語に落とし込むべきではなかったかなどと考えてみたりするのですが、さて何と言いましょうか。遊女が店に出て初めて客を取ることを「初見世」と言いますが、ヴェルニサージュにおいても同様、展覧会が初めて客の目に触れるので「初見世」なんて呼ぶのはいかがでしょうか。
 
そんなことはさて置き、3月11日よりオルセー美術館にて「ヴァン・ゴッホ / アルトー(Van Gogh / Artaud)」という展覧会が始まりました。ヴァン・ゴッホは言わずと知れた19世紀を代表する画家ですが、アルトーとは誰か、一体どのような人物だったのでしょうか。
 

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"Van Gogh / Artaud, Le suicidé de la société" au Musée d'Orsay à Paris©
 

Antonin Artaud

アントナン・アルトー(1896年9月4日 - 1948年3月4日)は、ギリシャ系フランス人の俳優ですが、詩人・小説家・演劇家としても活躍しました。1920年代に俳優としての活動を始め、主に舞台の仕事をする傍ら詩作を試み、シュルレアリスム運動に加わりました。20年代後半は多くのサイレント映画に出演しています。1936年より9年間精神病院に収監されますが、評伝『ヴァン・ゴッホ』でサント・ブーブ賞を受章します。彼の芸術に対する功績、特に前衛演劇に与えた強大なインパクトは、ドゥルーズやデリダの思想に影響を与え、現代の芸術を語る上で欠かせない存在とされています。
 

『ヴァン・ゴッホ』

今週始まった展覧会「ヴァン・ゴッホ / アルトー」は、アルトーが残した評伝『ヴァン・ゴッホ』を元に構成されています。
1947年、ゴッホの回顧展が始まる数日前、パリにあるギャラリー・オーナーのピエール・ロエブ(Pierre Loeb)は、精神病院から退院したばかりのアルトーに「ゴッホに関するエッセイ」を書くよう提案しました。こうして生まれたのが評伝『ヴァン・ゴッホ』です。
アルトーは本の中で「ゴッホは狂人だった」という俗説に対立し、「彼は狂人ではなかった」と断言します。そして、いかにしてゴッホの並外れた明晰さが彼の正気を邪魔したのかを提示しようとしました。ゴッホの絵画に垣間見える一種の暴力性を通して見えてくる、彼を自殺へと追い込んだ「真実」とは何だったのか。ゴッホが狂人だったのではなく、社会が彼を狂人と見なしたのだと彼は主張します。
すべての狂人のなかには、理解されざる天才がいて、かつて彼の頭のなかで輝いていたこの天才の観念が人びとをおそれさせたわけだが、この天才は、人生があらかじめ彼に課した八方ふさがりの状態から抜け出す道を、錯乱のなかにしか見出しえなかったのだ。
 
しかし、考えてみればアルトーも9年もの長い間精神病院にいたわけで、この評伝は狂人による狂人へのオマージュとも言えます。

 

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『ヴァン・ゴッホ / アルトー』展

展覧会はゴッホの油彩画が40点と数点のデッサンや手紙、そしてアルトーによるデッサンと映像で構成されています。オルセー美術館の所蔵品だけでなく、アムステルダム美術館やワシントン美術館、MET、個人蔵等々、多くの借り入れで成り立っており、アルトーの言ってることが全然理解出来なくても見応えは十分。中でも、ゴッホの「自画像」が集められた展示室は圧巻です。
 
会期は2014年7月6日までとなっているので、春休みやゴールデンウィークを利用してパリに来られる方にはお勧めです。
寓話の挿絵や風刺画を描かせたら右に出るものはいないと言われるギュスターヴ・ドレの展覧会も同じくオルセー美術館で5月11日で開催されています。お見逃しなく。
 

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歌川広重の木版画

最近「版画」にまつわる書籍を読んでいるということもあり、オークション・ハウス”Thierry Desbenoit & Associés”が開催した競売『日本の版画』を覗いてきました。

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